Episode 5 / 第5話 & Episode 6 / 第6話

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[1]

 世の中には、それほど多くはないと思うが、幽霊を見る能力を備えた人びとが存在する。霊媒とか霊能者の名前で呼ばれている人びとだ。当人たちが「見えた」と言えば、そうではない人びとに否定する根拠がない。僕の場合は、若い時に一度だけ夜中に山の中で幽霊らしきものを見た。その真偽は不明。いずれにしても、それらしき体験は一度だけで、僕には霊媒のような能力はないようだ。アツコ・アナ・ナミ・カコ・イボンヌの5人が僕の前に現れたのも、幽霊としてではなく、僕の夢の中の像だった。
 5人は、僕がスタジオに来て欲しいと呼び、彼女たちもOKの返事をした為、僕の夢の中に自由に登場しスタジオに住む事になった。僕には彼女たちと話したい事が沢山ある。彼女たちにも僕に訴えたい事が沢山あるようだ。しかし、5人によれば、夢の中に登場するには大きな労力が必要らしい。一度や二度なら問題ないが、何度もひんぱんに登場するのは体力的に厳しいと言う。死者にも行動の為には体力が必要なのだ。それで、僕は、彼女たちにはホログラムとしてスタジオの空間に登場してもらう事にした。これなら彼女たちの労力はゼロで済む。僕も、彼女たちには夢の中でしか会えないという制約から解放される。僕のグループは「脳波編集による、夢の像に対するデジタル映像化技術」の開発に成功しているので、この技術で僕の脳波から彼女たちのホログラムを生成するわけだ。5人もこれで楽になったと喜んでいる。僕も、夢の中の彼女たちよりホログラムとしての彼女たちの方がずっといい。空間構造に対する感覚が夢の中より鮮明なので、リアリティが遥かに増すからだ。それに、近い将来にはホログラムを通して僕が彼女たちに直接接触できる可能性がある。脳の知覚野を刺激して、仮想体験を実体験のように感じさせる技術が大きく進歩しているからだ。そして何よりも、ホログラムを物質化する技術開発がスタートしている。ホログラムを形成する映像粒子が物質に変化し、脳操作と連携して僕は「彼女たちは身体を持つ」と感じるようになるのである。これで、彼女たちが住む余剰次元と僕が住む現実世界の境界がさらに接近する事になる。

[2]

 そして、5人の最大の特徴は、夢の中でもホログラムでもその点は同じだが、彼女たちが「僕の世界内存在」であるという点だ。5人は、僕の世界の内部の存在なのだ。つまり、僕が呼んでいる限りにおいて彼女たちは存在する。僕がそれを止めれば、彼女たちも一瞬の内にいなくなる。そして、彼女たちとの関係において、僕が彼女たちを呼ばなくなるという事態はもうあり得ない。大切な存在として僕の心に住み着いているからだ。そして、何よりも、彼女たちが僕が失望する行動を取ったり、僕を裏切ったりする事はない。この点が最大に重要だ。僕も同じ。僕も、彼女たちを失望させないし、彼女たちを裏切らない。これが生者との最大の違いである。相手が生者であれば、当然こうはいかない。僕は相手にいつ裏切られるかわからないし、僕も相手を裏切らないと約束は出来ない。やむにやまれずそうなる事は、生者同士ではいくらでもある。しかし、彼女たちの関係ではそういう事がない。

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